島の仕事レポート

家畜人工授精師・受精卵移植師 山本 優一さん

2018/03/06

家畜人工授精師・受精卵移植師 山本 優一さん

沖永良部島では畜産が盛んです。人工授精によって産まれた子牛は、畜産農家で大事に育てられセリ市にかけられ、全国の肥育農家の元にわたります。今回、人工授精師の山本優一さんからお話を伺いました。寡黙な感じの山本さんですが、いざ話が始まると目を輝かせて熱く語ってくれました。

山本優一さん

【 山本 優一さん 】

人工授精師になったきっかけ

15歳で島を離れ鹿児島市内の高校へ、その後、琉球大学の農学部に進学しました。
大学4年の夏休みに、鹿児島県主催の人工授精師の講習会が約1カ月間あり、父親が人工授精師をやっていたこともあり、軽い気持ちで講習会を受けに行きました。この講習会に参加したのがきっかけというか転機でした。

講習会では牛の繁殖や授精などの話を聞き、宿に戻って夜は自分なりに理解するために教本を読み返しました。講習を受けていく中で、授精師の世界に惹かれ授精関係に携わりたいと思いました。

今でも使っているノート

【 人工授精師講習会で使ったノート 】

ひとつの命を誕生させることができる技術

大学卒業後、鹿児島県肉用牛改良研究所にて1年間研修生として勉強させてもらいました。
入所時に獣医の先生から「なぜ、人工授精師になりたいのか」という質問に対して「人工授精師の仕事は、ひとつの命を誕生させることができる技術、命と向き合う重みを感じるとともにやりがいがある仕事、技術を磨きながら成長したい」と22歳の僕は答えました。今、話すと恥ずかしくなりますね。

研究所での1年間は、自分の人生の中で最も成長した時期でした。
牛に対する知識、経験が乏しかった自分に対して、獣医の先生をはじめ職員の皆さんが丁寧に教えてくれました。その中でも繁殖技術については多くのことを学びました。

牛に触れ、牛を診る日々

1年間の研修を終え、宮崎県の受精卵関係を主にしている獣医の先生の元で、1年3カ月助手として働かせてもらいました。農家さん廻りの先生に同行し、受精卵移植についての知識を得ることができ、この時期に受精卵移植師の免許を取得しました。
この頃から、将来実家に帰ることを意識し始め、知識以上に技術面での経験を積みたいと思いました。

山本さん家の牛舎

【 山本さん家の牛舎 】

その後、鹿屋市にある種雄牛、生産牛、肥育牛を飼育している会社に就職しました。そこでは、毎日のように牛に触れ、直腸検査や授精、受精卵移植を行うことができました。

2年経った頃に、父親から「そろそろ帰ってこい」と言われ、しぶしぶ島に帰ってきましたがまだまだ経験を積みたいと思っていたので、帰ってくるのが少し早かったのかなと思うこともあります。

農家さんに強く伝えたい

我が家では、10年前に牛舎を増設し生産牛70頭まで増やしました。

せり市が2カ月に1回行われ、毎回、生後8カ月齢前後の牛を10頭ぐらい出しています。分娩監視カメラを導入しており、出産予定の牛を携帯で監視できる態勢をとっています。

分娩監視カメラ

【 分娩監視カメラの画像 】

ほとんどの牛は自然分娩です。昔のように引っ張る牛は10頭に1頭です。無理矢理引っ張ると、親牛の体内は傷つき、出血もあり、その後の種付けが悪くなります。子牛にもダメージが大きく、その後の発育に影響します。そのことを授精師として農家さん廻りをしている時に伝えているのですが、なかなか浸透しないのが現状です。

待ちきれず引っ張り出す農家さんの気持ちも理解できるのですが、できれば自然分娩ということを少しずつ伝えて行こうと思います。

受精卵移植の頭数を増やしていきたい

今後は、受精卵移植の頭数を増やしていきたいと思っています。受精卵移植の知識、技術を習得し、興味のある分野なので始めたのですが、ここ1年位頭数が伸びていません。

授精師は牛の発情がくると、専用のビニール手袋を着用し牛の直腸に手を入れ、直腸壁を通して子宮、卵巣を触診します。その上で、授精できる状態かどうかを判断します。

凍結精子が入っている液体窒素ボンベ

【 凍結精子が入っている液体窒素ボンベ 】

受精卵移植をする場合、授精できる牛をあえて授精せず1週間後に移植します。
移植は高能力の牛を生産できる技術ですが、授精の受胎率7割に比べて4割と低いのがデメリットです。

牛の発情時に「受精卵移植しませんか?」と農家さんに提案し、承諾を得て1週間後に受精卵移植を行います。しかし、1週間後受精卵移植となった時に、状態が悪く移植できない場合があります。その場合、農家さんとしては発情した時に授精しておけばよかったとなります。
受精卵移植が受け入れられない理由の1つです。自分から移植を提案して、1週間後に断念する状況になるのは、本当に申し訳ないです。

この状況をどうにかしたい!自分にできることは何かを考えた結果、移植できる状態の牛なのかを判断できる技術を磨くことだと思いました。
今年からやっていることは、我が家の牛をサンプルに、発情時にこの牛は1週間後に移植できる状態か予想を立てて観察し記録する、そして1週間後に状態を診て答え合わせをする、この一連の作業の頭数を増やして判断力を磨いていくことに注力しています。

判断力が上がれば、農家さんに自信を持って受精卵移植を進めることができます。難しい技術ですが、少しずつ移植頭数を増やせるように頑張っていきたいです。

農家さんに信頼される授精師を目指す

現在、島には授精師が13人います。その半分が30歳前後という若い授精師です。
定期的な集まりや飲み会でも人工授精、受精卵移植の話をすることがあります。情報交換の場になり楽しいですね。

山本さん

農家さん廻りの時は、農家さんと話をするようにしています。「牛がこういう状態だけど、どうしたらいいのか?」と相談を受けたり、「こんなことがあった」と教えてもらうこともあり日々勉強です。

自分が今、授精師として活動できているのは、これまでに父親が何十年も授精師として頑張ってきてくれたおかげであり、何よりも農家さんのおかげだと感謝しています。

山本さん

この感謝の気持ちを忘れずに、牛の状態を診て農家さんに納得のいく説明ができ、信頼される授精師になりたいと思っています。

 

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